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浅間山2009年2月噴火に関連する山体膨張(速報)(6月19日)

村瀬雅之(日本大学文理学部地球システム科学科)

2009年5月25−30日に浅間山の西部で名古屋大学・気象庁・日大の合同チームで水準測量調査が行われました.このページでは,木股・他(2009),名古屋大学・他(2009)の成果を引用・紹介し,浅間山の2009年2月噴火に関連する山体膨張について解説します.



図1 浅間山を南北に挟むGPS観測点間の基線長変化


図1は,浅間山をほぼ南北に挟む国土地理院のGPS観測点である佐久―嬬恋の基線長(観測点間の距離)の変化を示しています.グラフが右肩上がりのときは,基線の伸び(山体の膨張)を,右肩下がりのときは縮(山体の収縮)を示しています.中規模噴火が起こった2004年に注目すると,噴火に前後して右肩上がり(山体膨張)が見られます.

2004年噴火時は,複数のGPS観測点のデータを用いることで,山体の西側に垂直板状の割れ目を押し広げながらマグマが上がってきたことが推定されました(青木・他,2005).同じように今回の2009年噴火も,2008年の夏ごろから基線長が伸びに転じています. この2009年噴火に前後する山体膨張の詳細を捉えたいと,水準測量調査が行われました.

図2 車坂峠での水準測量の様子

写真2は,実際の水準測量の風景です.標尺と呼ばれる3メートルの大きな物差しを垂直に立てて,望遠鏡で高さを読むという地道な作業を繰り返すことによって2地点間の正確な高さの違いを得ることができます.写真を撮影した日はあいにく小雨で,標高約1900mの車坂峠は気温5度という厳しい環境での調査となりました.

この水準測量という手法は,火山のような数10km程度の範囲の地殻変動の検出を目的とした場合,GPSよりも制度が良く,高密度の観測点配置も容易です.地殻変動の観測というとGPSが真っ先に頭に浮かぶ時代になりましたが,火山の地殻変動を得る手法として,水準測量はまだまだ現役です.

図3 2007年―2009年の地殻変動グラフとコンター図(木股・他,2009より引用)

 図3は,苦労して調査した測量の結果です.2007年5月〜2009年 5月の間(図1の青線の期間)の高さの変化を示しています.浅間山南部の追分(図中の変動が0mmとなっている場所)から見て浅間山の西部が約5mm隆起している様子が検出されました.コンター図に注目すると,5mmの最大変動量を示した場所は,浅間山の山頂より約5kmも西で,GPSの推定同様,山体の西側にマグマが上がってきていることを示唆します.

今回は速報ということで,とりあえず検出された隆起のデータをお見せいたしました.今後,この隆起を引き起こした原因を推定するために詳細な解析・検討がなされる予定です.変動源の近傍から十数キロの地点までの密なデータが得られたことで,2009年の活動でマグマの上がってきた場所や深さなど,以前より精度良く推定されることが期待されます.


おまけ

図4 宿から見た浅間山

図5 浅間山火山防災連絡事務所(外観)

図6 連絡事務所看板

図7 連絡事務所内部

 図4は宿(中軽井沢)からの浅間山の眺め.晴れた日は浅間山がよく見えますが,観測中見れたのは1日だけでした.図5,6,7は,気象庁の浅間山火山防災連絡事務所にお邪魔した時に撮影させていただきました.軽井沢消防署の中に連絡所はあります.内部は,浅間山の監視カメラ映像や地震波形などがモニターされていました.



謝辞

  名古屋大学 木股文昭教授をはじめ水準測量調査に参加した方々に,測定結果を本ホームページで紹介することにご了解いただきました.また本報告に国土地理院の GEONET データを使用させていただきました.記して感謝いたします.

引用文献:

・青木,渡辺,小山,及川,森田,(2005)2004-2005年浅間山火山活動に伴う地殻変動.火山,50,575-584.
・木股,Enrique,松村,村瀬,齋藤,山際,飯野,(2009)精密水準測量による浅間山西山麓における上下変動(2007.5−2009.5),なまづ981号
・名古屋大学,日本大学文理学部,気象庁,(2009)精密水準測量による浅間山における上下変動(2007-2009年),第113回噴火予知連絡会資料


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