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2009年2月9日噴火の降灰調査結果と火山灰粒子の顕微鏡写真(2009年2月25日)

長井雅史・安井真也(日本大学文理学部地球システム科学科)

2009年2月9日11時半に始まった噴火は12日の8時まで継続する長時間の噴火でした(気象庁 浅間山 火山の状況に関する解説情報 第51号 ).ここでは2月10日の夕方に浅間山北東山麓で実施した降灰調査と,採取した火山灰の顕微鏡観察結果を報告します.


写真1 浅間山東北東山腹斜面に堆積した火山灰

2月10日17時頃,浅間牧場西方の国道146号線と片蓋川が交差する付近で三浦真撮影.

2月9日から10日までの噴火により浅間山南東の軽井沢町の一部で微量の降灰が記録されていますが(気象庁の解説情報48号),この写真の撮影時点でも南東方向に噴煙がたなびいています.写真をよく見ると,北北東側の山腹斜面(写真の山頂火口の右側)に多量の降灰が認められますが,東北東側の斜面(画面中央の尾根の左側)にも火山灰の堆積が認められます.利根砂防などの映像記録(浅間山カメラ最新画像一覧まえちゃんねっと)では,2月9日午前7~10時頃は東北東寄りに,13〜21時ごろは北東よりに噴煙が流れていますので,東北東斜面の灰は主に9日午前,北北東側の灰は主に9日午後に堆積したものとみられます.2月9日からの噴火では,ほぼ連続的に火山灰を噴出するなか,地上風の風向きが変化して南東から北北東の広い範囲に降灰があったと考えられます.



写真2 北東山麓での降灰状況

2月10日17:30時頃三浦真撮影.
浅間園に向かう道と分去茶屋から北北西に向かう道の交差点のロータリーにおける試料採取風景(図1の赤い矢印の地点).

写真3 北東山麓での降灰状況

2月10日18時頃三浦真撮影.
分去茶屋のロータリーでの堆積状況(この地点の降灰量は0.016kg/m2).写真2の地点に比べ,やや粗い粒子が認められます.これらは凝集粒子ですが,2月2日噴火の堆積物と同様に雪の表面が一旦溶けて氷に変化しているので,降下時の凝集構造かどうかは不明です.


図1 2009年2月9日の降灰の等重量線図

測定点が少ないためはっきりしませんが,山腹斜面の遠望観測の結果とあわせると,長時間にわたって火山灰を放出し続けた結果,風向きの時間変化の影響を受けて降灰軸が複数(少なくとも2つ)形成された可能性が高いです.火口からの距離がほぼ同じ地点で比較すると,2月9日の降灰量は2月2日噴火の1/10~1/20程度と推測されます.


以下に,図1の赤い矢印の地点の火山灰の偏光顕微鏡写真を示します.2月2日噴火の堆積物と構成粒子は基本的に同様です.多様な色調,結晶度のガラスが少量認められます.



写真4  1/8〜1/16mmの粒子.

オープン二コル 100倍で撮影(視野直径:2.2mm).
溶岩片,輝石(緑〜褐色)と斜長石(白色)の結晶片からなります.大半の粒子が磨耗されたような外形を示します.


写真5 1/8〜1/16mmの粒子.

オープン二コル 400倍で撮影(視野直径:1.1mm).
溶岩片は灰色,緻密で結晶質であり,2月2日噴火の堆積物中の溶岩片と同様の性質を示します.


写真6 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 400倍で撮影(視野直径:1.1mm).


写真7 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 400倍で撮影(視野直径:1.1mm).クロスヘア中央部に褐色ガラスが認められます.


写真8 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 1000倍で撮影(視野直径:0.4mm).中央は濃褐色でマイクロライトを含むガラス.


写真9 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 1000倍で撮影(視野直径:0.4mm).中央は濃褐色でマイクロライトをほとんど含まないガラス.


写真10 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 1000倍で撮影(視野直径:0.4mm).中央は淡褐色でマイクロライトを含むガラス.


写真11 1/16mm以下の細粒火山灰粒子.

オープン二コル 1000倍で撮影(視野直径:0.4mm).
中央は無色ガラスに囲まれた斜長石片.目盛60より左手が斜長石.直径40ミクロン程度の球形の気泡が認められます.


現地調査と試料採取を行った2月10日の夕方は,3日近くに及ぶ長時間の噴火の最中にあたりますが,それ以降,噴火の様式が劇的に変化したという報告はありません.9日からの噴火は長時間にわたって火山ガスと少量の火山灰を穏やかに噴出する性質のものだったと思われます.火山灰の構成粒子が主に緻密な溶岩片と結晶片であり,粒子が磨耗された形状を示すことは2日の噴火の噴出物とよく似ています.2月2日の最初期の噴火で噴出口が確保された後は,火山ガスの上昇に伴って,火道浅所から火口底を埋めた火砕物をうがいをするように磨耗しながら放出する“灰噴火”を長時間にわたって行うのが特徴といえそうです.2日噴火も9日からの噴火も極少量の新鮮な火山ガラスを含むことから,本質のマグマのかけらもわずかに関与していると考えられます.



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2009年2月10日更新

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