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8.浅間前掛火山のマグマ供給システム

Magmatic Plumbing System of Asama-Maekake Volcano

高橋正樹・安井真也・竹本弘幸(日本大学文理学部地球システム科学教室)

1 これまでのモデル
2 2004.9噴火のマグマ供給システム

8-1 マグマ供給システムについてのこれまでのモデル

図8-1 火山性地震の震源分布と地殻変動から推定したマグマ溜りの位置(宮崎,1989).

赤丸:浅いマグマ溜り;水色丸:深いマグマ溜り;赤矢印:マグマの通路(火道)(宮崎(1989)に加筆したもの).

宮崎(1989)は火山性地殻変動と火山性地震の震源分布に基づいて浅間前掛火山のマグマ供給システムを推定した(図8-1).火山性地殻変動からは,火口直下海抜0m付近の浅いマグマ溜りと,黒斑火山火口直下海抜-5km付近の深いマグマ溜りの存在が推定される.浅いマグマ溜りからは点状の火山性地震震源分布によって代表されるパイプ状の火道が火口底まで延びている.一方、深い方のマグマ溜りからは東西方向に伸長した震源分布によって示される岩脈(板)状の火道が,浅いマグマ溜りまで到達している.

浅間前掛火山噴出物には,苦鉄質マグマと珪長質マグマによるマグマ混合の証拠が認められる.噴火直前にマグマ混合が生じたとすると,マグマ混合は火口直下の浅いマグマ溜りで生じた可能性が高い.苦鉄質端成分マグマは黒斑火山の玄武岩〜玄武岩質安山岩マグマ,珪長質端成分マグマは仏岩火山のデイサイト質マグマに由来すると考えられる.両者には結晶分化作用を介しての親子関係はなく,起源の異なるマグマと推定されるので,火口直下のマグマ溜りで会合するまでは,異なるマグマ供給システムを構成していた可能性が高い.図8-2と図8-3はそうした考えで書かれた推定図である.

仏岩火山系の珪長質マグマは,2万年前頃に,小浅間火山,離山火山として前掛火山東麓の広い範囲に活動しており,こうした地域の地下には広範囲にわたって珪長質マグマが潜在している可能性が考えられる(図8-4).

図8-4 浅間前掛火山のマグマ溜りの位置と仏岩系珪長質マグマの地下潜在可能領域.

赤丸:火口直下海抜0m付近の浅所マグマ溜り;水色丸:黒斑火口直下海抜-5km付近の深所マグマ溜り;黄色丸:小浅間および離山火口;黄色線領域:仏岩系珪長質マグマが潜在する可能性のある領域.

8-2 2004年9月噴火のマグマ供給システム

火山性地殻変動から推定されている浅間前掛火山2004年9月噴火直前のマグマ供給システムを図8-5に示す.浅いマグマ溜り(膨張中心)は火口直下1km以内に推定されている(高木ほか,2004).これは宮崎(1989)によって推定された浅所火口の位置よりもさらに浅い.また,供給されたマグマ量は約140万m3と推定されている(高木ほか,2004).深い方のマグマ溜りは岩脈(板)状であり,その先端部は深さ海抜-2〜-2.5kmにある.この場所は,宮崎(1989)によって推定された深所マグマ溜りの位置とほぼ一致する.青木ほか(2004)によれば,2004年4月から9月の間に,地下深部から供給されたマグマは,山頂からの深さ4.6kmの場所を頂部として,長さ約2.7km,高さ約3.9km,幅約50cmの,南西方向に63度ほど傾いた西北西方向に延びた岩脈として貫入したらしい.また,それによるマグマ供給量は約520万m3と推定されている(青木ほか,2004).一方,村上(2004)によれば,2000年9月から2001年3月頃と2002年6月から2003年3月頃そして2004年4月から9月の噴火に至るまでの少なくとも3回にわたり,この深部マグマ溜り(岩脈)に断続的なマグマの供給があったらしい.このように火山性地殻変動をモニターすることでマグマの供給量を定量的に見積もることができるので,それによって今後の火山活動の推移をある程度予測することが可能となるものと思われる.

  1. 浅間前掛火山とは
  2. 浅間前掛火山の噴火様式と噴火史
  3. 古墳時代(4世紀)の大規模噴火
  4. 天仁大規模噴火(西暦1108年)
  5. 天明大規模噴火(西暦1783年)
  6. 浅間前掛火山の中規模噴火
  7. 浅間前掛火山噴出物の全岩化学組成
  8. 浅間前掛火山のマグマ供給システム
  • 準備中続編:「浅間黒斑火山の地質と形成史」
  • 準備中続編:「浅間仏岩火山の地質と形成史」
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