気象災害の頁

「佐呂間竜巻(20061107)発生当時の総観気象状況」

山川修治

11月7日13:30頃,北海道北東部の佐呂間町で竜巻が発生し,9名の尊い命が奪われました。最大瞬間風速は藤田スケールで,気象庁調査ではF2(50〜69m/s)以上,北見工業大学の現地調査結果によればF3(70〜92m/s)が指摘され,1990年12月11日の「茂原竜巻」にほぼ匹敵する日本史上最大級の竜巻となる可能性があります。ここでは佐呂間竜巻のメカニズムを推論するために当時の総観気象状況7項目を記したいと思います。

(1)急発達中の低気圧が北西方300kmを北上

図1 「佐呂間竜巻」発生1時間半前の地上天気図

2006年11月7日12:00JST

気象庁による

竜巻が発生したのは,995hPaの低気圧が間宮海峡南部を30km/hで北東進し,北へ進路を変えようとしている時分でした(図1;下記(4)と関連)。低気圧の中心から南東側約300kmにあたる佐呂間付近は,低気圧の暖域(温暖前線の南側かつ寒冷前線の東側)内で最も大気が不安定化しやすい場にあたっていました。北海道の北方を東進していく低気圧は少なくありませんが,オホーツク海で発達しながら北上する低気圧は比較的珍しいということが特徴としてまず挙げられます。その分,南方からの暖気を強く引き寄せたということができます。

(2)積乱雲群からなるスーパーセルを伴う顕著な寒冷前線の通過


図2 北日本から関東地方を覆うニンジン状雲

2006年11月7日13:00JST;MTSAT‐赤外画像

高知大Web-siteによる

対流圏下層においては暖湿気流(湿舌)が太平洋黒潮流域から上記の低気圧へ向かって流入,特に寒冷前線の南縁帯に強く流入,大気を不安定化させました。一方,寒冷前線の北西側,日本海中北部には,上空約5.5km(500hPa)に真冬並みの−30℃の寒気団が迫っていました。寒気団は寒冷前線の南に沿う暖湿気流層の上に進入,その間に横たわる寒冷前線上において,活発な上昇気流が起こり,積乱雲(Cb)列を形成しました。衛星画像(図2)では,積乱雲群からなる巨大な「にんじん状雲(tapering cloud)」が関東地方から北海道付近にかけてみられます。そのニンジン状雲の南端部付近の千葉県内でも風害が相次ぎましたが,その北部にあたる地域が今回竜巻に見舞われたわけです。ニンジン状雲の東方には先行するもうひとつのニンジン状雲があり,両者の間には晴天・下降流帯がみられ,その西側での上昇気流を強めたという構造も読みとれます。


図3 佐呂間上空に到来し発達したス-パーセル

矢印の先端;2006年11月7日13:30JST

気象庁による

ニンジン状雲の東縁部を北上し佐呂間付近へ到達した積乱雲は,レーダーエコー(図3)で雲頂が3つ認められ,北西-南東に長軸をもつ楕円形のCbクラスター(団塊状の積乱雲群),つまり「スーパーセル」(巨大な積乱雲の集合体で竜巻を起こしうる)を発現させています。およその水平スケールは長径17km×短径8km(典型的なスーパーセルの長径は30km程度なのでやや小型)です。そのスーパーセルが竜巻の「親雲」になりました。

(3)対流圏中層に乾燥空気の流入

強い寒気団とともに乾燥空気(同日09時:寒冷前線通過直前の札幌上空4〜5kmで確認)も北北西方より流入,それが大気の不安定化を加速させたとみられます。対流圏中層に乾燥空気があると,その中を通過する雨滴・氷晶(氷塊)が融解・昇華し,空気を冷却します。それが下降気流を生じ,対流活動を激化させ,その隣接部分では上昇気流が強まります。

(4)極めて鋭い楔状トラフの襲来による上昇気流と渦の発生


図4 東シベリアから日本海へ楔状を呈するトラフとその南東側のジェット気流

500hPa天気図;2006年11月7日09:00JST

韓国気象庁による

上記(1)(2)と関連しますが,東シベリアから日本海にかけて北から南へ走る極めて急峻な楔状の気圧の谷(トラフ)の東縁部が,対流圏の上空ほど発達した構造で北海道にさしかかっていました(図4)。そのトラフの前面(東側)の下層では暖かい太平洋からの温暖・湿潤な気流,後面(西側)中層では北極海の東シベリア海,東シベリアからの寒冷・乾燥な気流が,北海道方面へ吹き込みました。北日本付近における北西-南東の気温差は25℃/1000km(500hPa)に達しました。また,寒冷前線と対に存在する上空約9.5km(300hPa)のジェット気流(寒帯前線ジェット)は,北海道では南南西60m/sに達していましたが, 風上の本州よりはやや弱く,北海道の上空で発散していたことが,下層の収束と上昇気流を引き起こしたと考えられます。さらに,対流圏中下層で水平シア(風向・風速が水平方向にどの程度異なるかを示す)の非常に大きな両気流の接触・収束があり,低気圧性(反時計回り)の渦が発達し,竜巻発生の原動力になったと推測されます。この上空での深いトラフの状態は約1週間継続し,奥尻島(2006年11月9日13JST頃),富山湾(2006年11月12日12JSTすぎ)など,日本各地において竜巻の頻発を招きました。

(5)スーパーセルに寄与した山岳効果

寒冷前線の東側において,積乱雲群(雲頂高度:約12km)は日高山脈の東方約45kmを北北東進し,石狩山地の喜登牛山(1312m)の西側の鞍部を越えて,弱まることなくそのまま移動しました。そして,石狩山地の北側約40kmの佐呂間町付近まで達した頃,西方75kmの北見山地越えの寒気団が中層に進入し,積乱雲群はスーパーセル(雲頂高度:約13km)へと発達しました。さらに,上記の南方と西方から入った山越えの両気流が,不安定大気層内でジャンプする気流(ハイドローリックジャンプ;跳ね水現象)を生じた可能性も推測されます。

(6)オホーツク海沿岸地表付近の暖湿状態が助長した大気不安定化

当日,佐呂間町における最高気温が18.4℃と,平年を約10℃も上回ったことも竜巻発生の一因とみられます。それに加えて,オホーツク海南部の海面水温が平年より0.5〜2℃ほど高い状態となっていました。竜巻発生直前にオホーツク海から風が吹き込んでいますが,その湿潤気流の流入も大気不安定化を助長することにつながったと考えられます。

(7)黄砂の流入による影響

中国北部は乾燥状態が続いており,秋にもかかわらず黄砂が日本へ飛来しています。黄砂も凝結核や氷晶核となるため,雨滴や氷塊を形成することを促進します。今回の前線に伴う積乱雲内で降雹が観測されたこと,ひいては激しい対流活動・上昇気流が発生したことに,黄砂の影響が加わった可能性もあると考えられます。

更新日:061116

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日本の梅雨前線豪雨・日照不足および欧米の熱波をもたらしたブロッキングパターン

山川修治

日本付近における今年の梅雨前線活動は広域に集中豪雨・水害・土砂災害を繰り返しもたらすとともに、梅雨明けが例年より10日前後遅れるという経過をたどりました。ここで長かった梅雨季の天候異変を総括しておきたいと思います。

図1 南北幅広い梅雨前線性雲バンドのなかで
集中豪雨をもたらした白く輝く積乱雲群

2006年7月19日06時; MTSAT赤外画像;

高知大学Web情報による

今年の梅雨前線は、例年より南北に幅広い雲バンドを伴っているという特徴がみられました(図1)。その要因として「寒冷渦」(上空に寒気を伴い中緯度に移動してくる低気圧)が挙げられます。実は春先よりシベリア方面から北日本付近を通過する寒冷渦が頻発していたのですが、梅雨季にもその傾向が明瞭に継続していました。寒冷渦が極東の沿海州付近にあると、その南縁にあたる西日本や中央日本で南北の気温差(勾配)が大きくなるので、そのぶん大気は不安定化し、集中豪雨の引き金となります。例年、春〜夏になると、チベット高原・モンゴルなど内陸部が強く熱せられるため、梅雨前線は、西日本以西では水蒸気量の南北勾配が大きい反面、気温勾配はあまり大きくなく、気温勾配の大きい東日本の部分とは対照的です。しかし、今年は寒冷渦の南下によって、日本列島を横断するように気温急勾配帯が形成され、その地帯に東シナ海から、いわゆる「バックビルディング型」(ほぼ同じ地点に続々と積乱雲が生じ移動するタイプ)の線状積乱雲が西日本を経て中央日本に差しかかり、集中豪雨をもたらしました。5〜7月における50mm/h以上の豪雨は、AMeDAS観測開始の1976年以来、最頻の171回を全国で数えました(気象庁)。

図2 2006年8月2日における
北半球地上および500hPa天気図

実線:地上気圧; カラー:500hPa面高度場,
暖色系:高気圧,寒色系:低気圧;

Unisysによる

7月15〜24日に各地で被害をもたらした大雨は、「平成18年7月豪雨」と命名されました(気象庁)。7月19日、天竜川の堤防の一部決壊と岡谷市の土石流で象徴されるように、平年では比較的降水量の少ない長野県でも大変な集中豪雨となりました。当時、関門海峡付近から瀬戸内地方へ流入した線状積乱雲が、中央日本へ進入し、その山岳地域における強制的な上昇気流(地形効果)も加わり、大量の雨を降らせたということができます。そのときも北海道付近を寒冷渦が通過し、その西側の寒気が朝鮮半島付近から反時計回りに中央日本へ流入、さらに西南西方(インド洋方面)からの長大な湿舌、ならびに南方(北太平洋西部、黒潮流域)からの時計回りの湿舌が合流し、これら3気流の合流点にあたる長野県付近、山岳での地形効果もあいまって、激しい豪雨を引き起こしたとみられます。もし、寒冷渦がなければ、上記2つの湿舌を伴う時計回りの循環が対馬海峡あたりから北陸・東北地方で顕在化し、集中豪雨の地域も変わっていたということになります。夏の主役である北太平洋高気圧の今年の動向を北半球の地上天気図(図2; 黒の実線)でみてみましょう。北太平洋高気圧は太平洋北東部の中心部では強く、一部は北米西部へ張り出し、さらにはバミューダ高気圧(フロリダ半島東方に中心をもつ高気圧で,亜熱帯高圧帯〔緯度25〜35°付近を帯状に覆う高温の高気圧帯〕の一部をなす)から派生した北米北東部の高気圧ともリンクし、アメリカに熱波を引き起こしつつあることが読み取れます。7月下旬にはカリフォルニアを含むアメリカのほぼ全域で熱波となり、8月に入ってニューヨークをはじめアメリカ北東部で40℃を超える熱波に見舞われています。

対流圏中層500hPa天気図の高温・高気圧を示す赤・オレンジ色の部分(図2)に着目すると、東西に伸びる亜熱帯高圧帯の発達が際立ち、猛暑を示しています。一方、日本の盛夏をもたらす小笠原高気圧(北太平洋高気圧の西縁部、亜熱帯高圧帯の一部)の勢力は弱かったことがわかります。中緯度を巡る偏西風が「ブロッキングパターン」(非常に大きい蛇行が持続するタイプ。図2の黄緑色のゾーンに注目すると、その特徴が現れている)になっています。そして、その北へ凸となるリッジの地域で猛暑、南へ凸となるトラフの地域で冷涼、トラフの東側で偏西風が南西から北東へ向けて強化されているところで豪雨という構図がみられます。

ヨーロッパでも、イギリス、フランス、ドイツで7月の最高気温を更新し、異常高温の2003年を髣髴とさせるような猛暑となっていましたが、こちらはアゾレス高気圧(北大西洋東部の高気圧で、亜熱帯高圧帯の一部)が北東方に張り出し、500hPa気圧場でわかるように、アフリカ北西部からの熱波が西欧へ押し寄せた様子をうかがえます(図2)。

では、なぜブロッキングパターンが卓越したのでしょうか。北極圏の寒気団(寒冷渦で代表される)と亜熱帯の暖気団(亜熱帯高圧帯の中緯度張り出しに代表される)とがともに強く、中緯度で相接すると、その上空を吹くジェット気流が大きく蛇行し始めます。今年の春季〜梅雨季〜夏季はまさにその典型といえるでしょう。

さて、天候に大きな影響を及ぼす海面水温(SST)についてもみてみましょう。図3には最近のSSTの偏差(平年値からの差)が示されています。現在は、エルニーニョ現象(熱帯太平洋東部のSSTが正偏差、東高西低パターンで、日本は冷夏傾向に)もラニーニャ現象(同海域SSTが負偏差、西高東低パターンで、日本は暑夏傾向に)も起きていません。この冬〜春にはラニーニャ傾向で推移し、この夏もラニーニャが顕在化し、日本列島がもっと早く猛暑に見舞われると予測されました。フィリピン東方に高SSTが存在すると、そこで強い上昇気流を生じ、その下降気流域にあたる小笠原高気圧を発達させます。しかし、台風0603号(2006年の3号)、0604号による表層水の撹拌効果で、フィリピン東方のSSTは肝心の7月に平年をやや下回り、小笠原高気圧の発達の遅れにつながりました。

7月下旬に台風0605号が台湾から中国南東部へ北上、それに連動してハドレー循環(熱帯で上昇、亜熱帯で下降する循環)が強化し、小笠原高気圧が勢力を増し、待望の「梅雨明け」が西日本から始まりました。特に、まだ日本列島上空に梅雨前線が停滞していた7月25日に、東京の地上気圧が24時間のうちに6.5hPa(1009.1hPa⇒1015.6hPa)も急上昇し、一気に前線活動を弱めたことは特徴的でした。

今年5〜7月の天候特性は、前線活動による大雨とともに、日照時間が全国的に平年の半分程度であったことを挙げることができます。例年なら梅雨明けし暑さの本格化する7月末になって、オホーツク海高気圧(冷涼な高気圧で、卓越するとヤマセ・冷夏をもたらす)が一時季節はずれの発達をみせるという珍しい現象も加わり、水稲や野菜をはじめ農作物の生育の遅れが懸念されています。

図3 2006年7月23〜29日における
海面水温(SST)の偏差分布

平年に比べて寒色系は低温,暖色系は高温;

NOAAによる

そして、台風0606号が南シナ海で発生した翌々日の8月3日に、ようやく全国的な盛夏の到来となりました。しかし、本来、世界中で最も顕著な暖水を擁しwarm pool ともいわれるフィリピン東方海域は、まだやや低温のところもフィリピン北東方にみられますが、広域ではほぼ平年並の高温状態となってきており、その北側の日本南方近海のSSTが平年より高い(図3)ため、8月5〜6日に、台風0607号、0608号、0609号が日本南方で相次ぎ発生しました。日本南方の熱帯低気圧・台風活動は、例年以上に北にシフトしており、発生後数日で日本に急接近したり、最盛期に近い状態で日本へ襲来する台風が多くなる恐れがあります。加えて、寒冷渦活動は8月も時折、日本列島へ影響を及ぼしそうです。北から気圧の谷、南から台風…と、「高温ながらも不順な夏」になる可能性が高まっています。

更新日:060809

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「『平成18年豪雪』と世界の状況について

山川修治

1.日本の状況
2.フィリピンにおける豪雨
3.日本の低気圧と
オーストラリアのサイクロン
4.黄砂が多い理由
5.ハワイでの災害
6.まだまだ注意を忘れずに…

今冬の日本列島は,気象庁が「平成18年豪雪」と名付ける(「昭和38年豪雪」以来の正式名称)ほど寒く雪の多かったことで特徴付けられます。昨年12月の豪雪(前報を参照してください)に引き続いてはじめて記録的豪雪となったわけですから,その命名に疑問符が付きますが,それはともかくとして,今冬のその後の状況について海外を含めまとめておきたいと思います。

1.日本の状況

今年1月は,北半球上空で12月に卓越していた3波循環(前報参照)はだいぶ崩れたものの,東アジアの寒波は全般に強い状況が続きました。1月4〜5日に日本海側にもたらされた豪雪のあと,雪崩が続発したことを契機として,災害救助法が6日(新潟県十日町市など5市町村),7日(長野県飯山市など7市町村)に発令されました。

厳冬は続き,山中湖の全面結氷(1月12日)は22年ぶりのことでした。また,波状的に襲った寒波によって,積雪量は1月26日に群馬県・藤原で301cm,1月28日に新潟県・湯沢で358cm,2月5日に新潟県・津南で416cm,2月9日に岐阜県・白川で297cm,2月12日に山形県肘折で379cm,2月13日には青森県酸ヶ湯で453cmと,いずれも史上最高を更新したほか,気象庁積雪計およびAMeDASの観測点では全国23か所で年間の最深積雪を記録しました(気象庁,2006)。そのような豪雪に見舞われ,除雪時や屋根からの落雪による事故などが相次ぎ,1月17日には犠牲者100人を超す事態になってしまいました。そのほか,2月4日に八丈島で60年ぶりの積雪(3cm)があるなど,記録づくめの冬でした。

図1 日本列島に襲来した大寒波とフィリピン付近の豪雨

2006年1月24日21時のMTSAT赤外画像

高知大Web情報

2.フィリピンにおける豪雨

1月下旬に入っても厳しい寒波が続きましたが,寒気団を伴う寒冷前線はちょうどフィリピン中部付近まで南下する傾向に変わりました。そして同地域の対流活動を強め,断続的な豪雨をもらしたのです。図1は2月10日のMTSAT(GMS「ひまわり」系列で高精度の静止気象衛星)の赤外画像ですが,寒波吹き出しの南限付近にあたるフィリピン付近の対流活動が活発化していることがわかります。平年よりも対流活動の活発な状態が続いたことは,OLR(射出長波放射量)のデータからも確かめることができます。そして,約3週間の断続的豪雨の末,2月12日に,フィリピン・レイテ島東部のタクロバンで洪水,次いで,2月17日にはレイテ島南部のギンサオゴン地区で,大規模な地滑り・泥流が発生し,崩壊土の総量は約1500万m3と見積もられ(國生,2006),死者・行方不明者は約1800人(?)にも及ぶ事態を招きました。ほぼ時を同じくして,熱帯太平洋においてラニーニャ現象(海面水温偏差が西高東低となる)が顕在化したことは,季節はずれの豪雨が続いた要因と考えられます。また,森林伐採による表土流出が起こりやすくなっていたことも素因の一つに挙げられています。

図2 北日本東方で急激に発達したアリューシャン低気圧とそのはるか南方で猛烈に発達したサイクロン

2006年3月19日21時のMTSAT赤外画像

高知大Web情報

3.日本の低気圧とオーストラリアのサイクロン

2月に入って,厳冬傾向にかげりがみられ,低気圧の通過が増え,気温の変動が大きく,目まぐるしく天気変化するようになりました。そして寒さの緩む日には雪崩や融雪洪水が多発しました。3月に入り,「春一番」がやや遅れて(東京:3月6日)観測された頃から,日本付近を高速で通過する低気圧の個数が急増しました。特に,3月18〜19日に日本列島を通過した低気圧は北日本の東海上で急発達しました。そのときの南半球の雲の様子をご覧ください(図2)。熱帯収束帯(ITCZ)が南緯10〜20度に位置しており,所々で熱帯低気圧活動がみられます。なかでもオーストラリア北東岸に接近中のサイクロン「ラリー」は,非常に強く最強ランクのカテゴリー5をマークしました。オーストラリアを襲ったサイクロンとしては,1974年12月以来の規模で,クインズランド州東岸のInnisfail(Cairnsの南約100km)付近が大被害を受けました。そのサイクロンの発生過程をさかのぼってみると,上記(図1)の2月10日過ぎに日本付近を通過した寒波に関係していることがわかります。寒気団の一部は,もちろん変質しながらですが,はるばる赤道を越えてオーストラリア北部とその周辺へと進入し,同地域の積雲対流活動の強化につながったと考えられます。

図3 急発達したアリューシャン低気圧西側の寒気団に伴う
積雲群と突風を伴う積雲列

2006年3月20日09:21,NOAA-ch1可視画像

日大・広領域センター

3月20日のNOAA画像(図3)は,上記(図2)の急発達した低気圧に伴う日本付近の寒気の吹き出しの状況を詳細に示しています。日本海にはびっしりと積雲(雪雲)が並び,一部は日本列島の脊梁山脈で遮断されますが,大半は脊梁山脈を越えて太平洋上にも広がっています。この日朝6時には,千島半島南端付近でアリューシャン低気圧(爆弾低気圧;前報参照)の中心示度は966hPaに達し,西高東低気圧配置となり,猛烈な「引き型」(低気圧の吸引力が高気圧の吹出力に勝る)の北西季節風が吹きました。第1級の寒気団も北日本上空へ入り,大気が不安定化したこともあって,青森県・八戸で最大瞬間風速35.7m/sという3月史上最強の突風を記録,山形県の寒河江や秋田県の羽後でトタン屋根が飛ぶなど突風の被害が相次ぎました。

4.黄砂が多い理由

また,今冬〜春は黄砂の飛来の極めて活発なことが特筆されます。早くも1月6日に福岡で「黄色い雪」(黄砂を凝結核にした,あるいは黄砂を吸着した雪片が降り積もり,黄色の雪層を呈する)の報告があったほか,3月9日には西日本で,3月12〜14日には広域で多量の黄砂の飛来が観測され,福岡・佐賀で「黄色い雪」が確認されたそうです。黄砂頻発の要因を探ってみると,まず,モンゴル方面から北日本付近を通過するコースの低気圧が多く,それに伴う寒冷前線が砂漠や乾燥地域を通過するさいに砂塵嵐を引き起こしていることが挙げられます。さらに,上空のジェット気流は,シベリア方面から日本方面へ向かう流れが顕著で,その影響を受けて黄砂が大量に運搬されてきているほか,地上では北日本と本州南岸の「2つ玉低気圧」のケースが多く,その中間では降水がやや少ないということもあって,黄砂輸送条件が例年以上に整っているといえます。加えて,素因として,冬の始まりが早く,黄砂発生地域でもシベリア高気圧圏内に入る時間が長かったため,同地域の乾燥状態が高まっていること,2月の段階でモンゴル東部,カザフスタン,チベット高原において積雪が平年より少なかったことが影響しているものと考えられます。今後も同様の低気圧・前線が頻繁に日本付近を通過しそうで,4〜5月にかけても顕著な黄砂現象が起こりそうです。

図4 日本列島を続々通過する低気圧家族とハワイに洪水・竜巻をもたらしたコナ・ストーム

2006年3月23日09時のMTSAT赤外画像

高知大Web情報

5.ハワイでの災害

東アジアのほかでも,大変な異常気象に見舞われているところがあります。その典型的な地域は,図4の画面の右縁辺部,北半球低緯度にあるハワイです。例年ならば,シベリア寒気団の影響をあまり受けないハワイ諸島ですが,今冬は状況を全く異にし,日本付近を通った低気圧や前線の一部は,ハワイ付近をもしばしば通過していきました。今冬の後半以降,アラスカ沖上空に低気圧が停滞した影響を受けて,その前線がちょうどハワイ付近へ伸びやすくなったわけです。さらに,ITCZに伴う対流活動や積乱雲群の影響も加わり,いわゆる「コナ・ストーム」(ハワイ諸島付近に寒冷前線が到来したさい,亜熱帯海域で発生する暴風雨を伴う擾乱)として再発達するという状況が続いています。3月14日にはカウアイ島北部で長雨・大雨のためダムが決壊し,洪水を引き起こしました。そして,図4の東端部にみえる雲バンドは「にんじん状雲」(集中豪雨を伴いやすい南に細く北に太い雲パターン)を呈していますが,3月23日にラナイ島で竜巻,ハワイ島で降雹という同地では極めて珍しい現象を引き起こしました。27日までの3週間に,オアフ島で975mm,カウアイ島で875mmを記録しましたが,オアフ島・ホノルルの3月の平均降水量は48.6mm(1971〜2000年の平年値)ですから,いかに異常多雨であるかということがわかります。

6.まだまだ注意を忘れずに…

一方,南米・ペルーでは,3月28日に La Leche川が豪雨で溢れ,コーンや綿花が被害を受けたとの新情報も入りました。ペルーで大雨というとエルニーニョを連想しますが,表層海水の状況をみると,今冬にわかに発生し現在進行中のラニーニャは,今夏にかけてはむしろ強化される可能性が高くなっています。 同日,日本では,和歌山県・潮岬で,寒冷前線の通過のさいに竜巻が発生,屋根が吹き飛ばされたり,車のフロントガラスが壊れるなどの被害が出ました。潮岬は台風銀座で風害対策は十分施されているはずですが,その地での風害は注目に値します。さらに,30日には八丈島でめずらしい降雹もあったそうです。

今後,日本海側など,雪国の山間部ではまだまだ5月の連休頃までは,融雪洪水や雪崩に対する警戒が必要です。また,今春は通例より南北両気団が強く,その間を吹くジェット気流が激しく蛇行しながら日本上空を吹き渡る傾向がみられることから,天気と気温の急変や突風による山岳遭難や突発的気象災害にも十分な注意を払う必要があるといえるでしょう。

【参考Webサイト】 気象庁(2006) http://www.data.kishou.go.jp/stat/tenko051202.pdf 國生剛治(2006) http://www.civil.chuo-u.ac.jp/lab/doshitu/photo/2005/event/reite.pdf

更新日:060331

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