トピックスの頁

浅間山2009年2月2日,9日噴火の火山灰の付着可溶成分(3月12日)

大八木英夫・宮地直道(日本大学文理学部地球システム科学科)

浅間山で2009年2月に発生した噴火では火山灰などの固体破片のほかに多量の火山ガスも放出されました.火山ガスの大半は水ですが,この他にも普通,二酸化炭素(CO2)や硫化水素(H2S),二酸化硫黄(亜硫酸ガスSO2),塩酸(HCl),フッ化水素(HF)などが含まれています.これらのガス成分はマグマの活動の変化に伴い量や量比が変化するため,噴火の推移を予測する上で重要な指標となります.ただし噴煙の中のガス成分を直接採取することはできません.一方,ガス成分のうち水溶性のフッ素(F),塩素(Cl),硫酸(SO4)などは噴火の時に火山ガスと一緒に噴出した火山灰の表面に付着することが知られています.

そこで,2月2日の噴火で関東地方各地に降った火山灰と2月9日の噴火で浅間山麓に降った火山灰のうち乾燥状態で採取されて試料について,火山灰に付着している水溶性成分の種類や量を調べました.分析は試料約2gを正確にとり,50mlの純水を加えて約70℃で1昼夜加温し,5Cのろ紙でろ過して50mlに定容したもの検液としました.そしてこの液をイオンクロマトグラフィーで分析し,主要無機イオン含量を調べました.また,一部の試料についてはガラス電極法で水素イオン濃度(pH)と電気伝導度(EC)も測定しました.

分析結果のうち,まずClとSO4の量に注目してみると, 2日,9日の火山灰とも火山灰1kg中のCl含量は50〜300mgでした.一方,1kg中のSO4含量は2日の火山灰は3000〜5000mgであるのに対し,9日の火山灰は70mgと減少していました.なお2004年噴火の際は今回よりもはるかに多くのClやSO4が噴出していました(図1).ClやSO4は2004年噴火の中でも特に活動初期の9月1日および14日の噴火の火山灰に多く,噴火開始前の静穏期における火山ガスによる変質作用により生産されたと考えられています(野上ほか,2008).


左寄せの図
 
左寄せの図

図1 2009年および2004年噴火の火山灰に付着している水溶性SO4およびCl含量

2004年噴火の火山灰のデータは野上ほか(2008)による
 

図2 2009年および2004年噴火の火山灰付着可溶成分のF/ClとCl/SO4の関係

2004年噴火の火山灰のデータは野上ほか(2008)による


火山灰に付着している水溶性のSO4量は火口から約70kmまでは増加するものの,約70km以遠では火山灰1kg中約5000mgのレベルでほぼ一定です.火山灰中で砂サイズ以下(直径64μ以下)の細粒な粒子が占める割合は,火口近傍では約10%であるのに対し,約70km以遠では約40%以上です.火口近傍でも細粒な粒子のSO4含量は高いことから,SO4は細粒な火山灰に多く含まれると考えられます.このようなSO4が火山灰にどのような形で付着しているかは明確ではありません.ただし,XRDによる分析では水溶性の固体の鉱物である石膏(CaSO4・2H2O)は確認されていないことから(「浅間山2009年2月2日噴火の火山灰中に含まれていた鉱物」),SO4は噴煙中の水蒸気に溶けていた可能性が高いと思われます.


左寄せの図

図3  2009年2月2日噴火の火山灰に付着している
水溶性SO4量の浅間山からの距離別変化



また,火山灰のpHは低く,ECは高い値でした.浅間山麓の軽井沢で採取した2月2日の火山灰のpH (水抽出;試料:水=1:2.5重量比)は4.52と酸性で,EC(水抽出;試料:水=1:5重量比)は1.25mS/cm でした.なお,ECが1.4mS/cm以上の砂質の火山灰(土)が農地に厚く堆積すると作物に障害が発生するといわれています.

以上のように2月2日の火山灰は各地点とも概ね可溶性成分量が少なくF/ClやCl/SO4は低いことから,これらの成分をもたらした火山ガスの温度は比較的低かったと思われます. また9日の火山灰もCl/SO4がやや高いもののF含量は少なく,2日とほぼ同様ないしより低温の噴火であったと思われます.火山灰の構成物の観察より2月2日および9日噴火では火道浅所や火口底を埋めた溶岩や火砕物が粉砕され放出されたと考えられています(「浅間山2009年2月2日噴火の火山灰粒子−遠方と山腹の試料の比較−」,「2009年2月9日噴火の降灰調査結果と火山灰粒子の顕微鏡写真」).ただし火山灰の可溶成分量は2004年の初期に比べると少なくなっていることから,火口内における火山ガスによるこれらの噴出物に対する変質作用は2004年噴火後,著しくは進んでいないと思われます.

文献

野上健治・鬼澤真也・平林順一(2008)2004年浅間山噴火における地球化学的観測研究―噴出物の水溶性成分の変動と火山活動―.火山,53,69-77

更新日:090312

↑このページの最初へ

目  次

*写真をクリックすると,新しいウィンドウで大きくしてご覧になれます.
:最新情報
 :新しいウィンドウが開きます.
 :外部にリンクしています.新しいウィンドウで開きます.